―WONDER MAKER―(第四章&第五章)
第四章 〝英雄〟VS〝絶望〟
『〝英雄〟……確かギルド本部の牢獄で捕まってたはずじゃ……』
その場にいたロストボーイたちがロミオの名前に反応する。
本来なら、彼は〝連続通り魔事件〟の犯人としてギルド本部の地下牢獄に収監されているはず。
皆が不思議がるが……今はどうでもいい。
ロミオと共に捕まっていたオノダも、彼の後方で控えていた。
「〝英雄〟……グロッキー兄弟が言ってた賞金稼ぎか」
アダムは今朝の事件をあの二人から少し聞いてはいたようだ。
「話に聞いてたよりは……手強そうだな」
ロミオはそんなアダムの言葉を余所に、唐突に話を切り出す。
「十二年前……俺の故郷『リドル』が一人の男に滅ぼされた」
「……リドル」
「その男の異名は――〝絶望〟。……お前だよ」
〝絶望〟という名前は、彼の犯行の様子から来ている。
犯行現場に残された極端な手がかり&痕跡の少なさ……。
効率的かつ計画的な犯罪の実行……。
芸術的な犯行手順&演出……。
犠牲者の遺体・現場状況から見える共感力の欠如……。
狙われたが最後、完全犯罪の名の下に全てを奪われる。
謎に覆われた大量連続殺人鬼……恐るべき世界的犯罪者の正体が今、明らかになる時が来た。
「俺はそのリドルの……たった一人の生き残りだ」
「ああ……あの第五大陸の港町か。あの町に生存者がいたのか……俺もまだ甘かったな」
「ラウルっていう命の恩人が、孤児だった俺のことを小舟に乗せて海へと逃がしてくれたんだよ」
「その男の仇を討つべく、此処まで俺を追ってきたと……?」
「まあ、それもあるけどな」
ロミオは続けざまに。
「俺はこの島に来て、ある女に出会ったんだ。そいつは弱くて不器用なくせに、自分が危険を冒してでも他人を助けようとする……そんなお人好しだ」
「そして、そいつにさっきこの島を救ってくれって頼まれた」
「これまで俺は、〝英雄〟の強さと知名度を利用しようと近寄ってくる弱者を何百何千と見てきた。だけど――」
「――初めてだった。他人を助けるために俺の力を必要として身を捧げてきたヤツは」
――そんな女の涙を見て、男は……。
「俺が誰かのために戦うなんて考えもしなかった。だけど……決めた。俺は今日、ロミオとしてではなく〝英雄〟としてお前を倒し、この島を救ってやる!」
アダムが醜悪な笑みを浮かべながら。
「大口が過ぎるな……弱者が過度な期待を抱くな。身の程を知――」
「大口は主人公の特権だ!」
「……!」
その頃、メルは。
「……ぐずっ……行かなきゃ……!」
涙を拭いながら立ち上がり、ロミオVSアダムの対決を見届けるべく、彼らを探し始める。
アダムは言う。
「よく分からんが仇討ちや人助けなんざくだらない負け犬の大義だ……俺は〝本能〟に従って生きてきた。その結果何が滅ぼうとも俺に非はない……所詮、生きる者全てが弱肉強食だ。そうだろ?」
「ああ」
「忘れもしねえ……。二十年前、あの日から戦国時代が始まった。あの忌まわしいアーサーの野郎がこの世から消えた日……まさに強者にとっての天国の始まりだった」
ムハハハハハ! と夜空を仰ぎ、高らかに笑いながらアダムは続ける。
「戦国時代は最高だっ! 金も酒も、城も家も、男も女も……この世の全てが俺の思うがままだ! 生かすも殺すも、作るも壊すも、全部自由っ! 何故か分かるか〝英雄〟よ!」
「……言ってみな?」
「力が全てだからだ……‼ このネバーランドの王族として生まれた俺は、その力ある者すらも足蹴にできる特別な存在なんだ! ムハハハハハ……ッ!」
「は⁉」
『『な、何だって⁉ 今、アイツ自分のこと……ネバーランドの王族って言ったか⁉』』
あまりに突然の、衝撃の告白……。
そして今、アダムの口から真実が語られることとなる。
「どのみち〝絶望〟の仮面は今日でお役御免なんだ……。俺の正体をここに残ったお前らに先に明かしてやるよ。あとで全員消すがな……」
それから続けて、アダムはこう口にした。
「俺の本名は『アダム・ワンダーガーデン』――ネバーランドの元王族にして、この島を支配する魔法族ギルド【エスプル・ハルディン】の前君主シャーロット・ワンダーガーデンの実の弟だ‼」
『『っ⁉』』
「〝絶望〟が……ネバーランドの元王族……?」
驚愕する一同。
「二十一年前……十五の子供の頃、俺は姉によってこの国から追放された。ギルドの仲間を殺したのさ。……以来、俺は俺から王族の地位を奪った姉とネバーランドを滅ぼすことを時々夢に見てた。そしてある日、その夢を可能にする計画と出会ったのさ」
「計画……?」
「詳しく話す気はねえが……おれはその計画に乗ることにした。〝本能〟が叫んだのさ。『子供の頃に夢見たおとぎ話を実現するチャンス』だとな」
「おとぎ話……」
「そうさ。あの女……シャーロットが生み出した俺という呪いの怪物がこの島を滅ぼすんだ」
「……」
「〝英雄〟よ……今日まで俺を追ってきたその執念と行動力には敬意を示すよ。ごくろうだったな。……だが魔法族の中の王族に生まれた俺からすれば、お前の姿は滑稽極まりないものだ……」
正体の告白を済ませたアダムは捲し立てるように続けた。
「〝英雄〟? 自分を特別な存在だと思ってるのか? 弱者の子供の描く夢幻の類いだ」
「人間族、亜人族、そして魔法族。生まれながらにソイツの人生の結末は決まってる……」
「残酷な話だろ? 信じがてえだろ? でも、これが本来の姿なんだ」
「孤児で庶民な子供には太古の人類が示した神話の知識も無いのだろう」
「昔、神はこの世に善と悪を生み出した。この世界の終わりまで、悪が潰えることはない」
「いいだろう〝英雄〟よ……。まだ俺には時間がある、暇つぶしだ。滅ぼした町の子供一匹なんざ覚えちゃいないが、付き合ってやる……その伝説の続きとやらにな」
「そういえば……俺の描くおとぎ話には、たった一人……重要な役割の登場人物が欠けていたな」
「俺の野望に立ち塞がる……実態のない夢に縋りつく弱者共の希望の光――〝英雄〟だよ」
「俺は完璧主義者なんだよ。破滅の現場に、子供一匹の生存者すら残さない……。だから俺の正体に、今日まで誰も気づかなかったのさ」
「あの日『リドル』で逃した完全犯罪……最後のピースが見つかったようだ。ここで完遂させて貰おうか」
「お前を殺し、ネバーランドへの復讐を果たしたその時が――俺のおとぎ話の完成の時だ。せいぜい楽しませてくれ……これが〝絶望〟としての俺の最後の戦い、そしてアダム・ワンダーガーデンの人生の第二章の始まりだ! ムハハハハハハハハハハ‼」
――〝暗黒人形〟。
そう口にしたアダムが島中に響く黒い波動を放つ……。
すると、謎の黒い人影が島の各地に出現し――やがて住人達を襲い始めた。
「はあああああ……」
ムキムキムキ、ムキンッ!
ロミオが全身の筋肉を解放し、戦闘態勢を整える。
「オノダ!」
「?」
「お前の妖刀なら黒い人影を倒せるかもしれない」
十二年前に今のネバーランドと同じ光景を見ていたロミオは、動じることなくオノダにそう言った。
「それに……グロッキー兄弟の姿が見当たらない。あいつら多分中心街のどっかで暴れてるはずだ。その対処を頼みたい」
「む……今朝の者どもだな?」
「コイツは俺が絶対に倒す。でも、あいつらへのリベンジマッチは……お前に譲るよ」
「り……りべ……?」
「いいから、はよいけぇ!」
「……あいわかったっ!」
オノダがその場から走り去り、ついに因縁の二人の対決が始まる――。
「……フンッ!」
先手を打ったアダムが大振りの右フックでロミオに殴りかかる、ロミオが素早い動きで上体を倒し、攻勢に出る。
「〝スマッシュ〟」
ドゴッ! と、アダムの顎に強烈な拳撃が命中する。
続いて。
「〝スタンプ〟」
バキッ! と突き刺すような前蹴りがアダムの鳩尾に入り……。
「〝ローリングソバット〟!」
ドカァァアアアン!
飛び上がったロミオの後ろ回し蹴りでアダムは吹っ飛ばされた。
「……っ」
しかし。
アダムは倒れなかった。
「フ……」
ロミオがさらなる追撃を加えようと、ダダダ! とアダムに駆け寄ると。
「〝シルバー〟……」
ボディブローを構えたロミオの……。
――〝夜襲〟。
背後に瞬時に移動したアダムが、彼の首後ろの襟をガシッと掴んで。
――〝死の運命〟。
そして背負うように宙に持ち上げられたロミオの頭が、勢いよく地面へと叩きつけられた。
ドゴォォオオオオオン!
「がはっ……!」
地面に仰向けに倒れたロミオに、アダムの追撃が刺さる……。
――〝烙印〟。
「おぇ……っ」
バキィッ! と、アダムの右拳がロミオの腹部を圧迫する。
ミシミシと、全身の骨の軋む音がした。
二人の戦いを見守っていたロストボーイたちも、思わず顔を顰め……。
「……っ」
起き上がろうとしたロミオの右脚を掴んだアダムは、その場でグルグルと回り始める。
――〝暴動〟。
「オラァッ!」
アダムはロミオの右脚から手を離し、勢い付いたロミオの体は建物の壁へと衝突する。
ボコォォオオオオオン!
石造りの壁が崩壊し、ロミオは建物の中へと放り込まれた……。
「ゲホッ……ゲホッ……!」
ロストボーイたちの血の気が引く程の大熱戦だ。
『……?』
少しして建物の中から出て来たロミオの手に、何かが握られている。
おそらく、『ラム酒』だ。
すると。
「見てろ……」
そう言った直後、ロミオはラム酒の栓を開け……グビグビと一気飲みし始めた。
「……あ?」
そしてあっという間にボトルを空にすると、ポイッと放り投げた。
パリィン……。
「ういいいい……うっぷ」
先ほどまで青白かったロミオの頬が真っ赤に染まる。
千鳥足でフラフラと揺れた後……ロミオはバタンと倒れた。
アダムも他の人々も不思議がるが、すぐにスッと立ち上がって。
「……疾風脚」
と呟いた瞬間、シュン! と姿を消す。
そしてアダムの頭上に現れ……。
「……〝天空襲撃〟」
バキィ! とアダムの脳天に強烈なバック宙蹴りを繰り出す。
「オォ……ッ」
よろめくアダム……。
明らかにロミオのスピードとパワーが上がっていた。
これは、太古の時代にどこかの秘境の村で編み出された『酔拳』という武術だ。
その後もアダムの打撃をのらりくらりと躱し、ロミオは大技を何発もたたき込む。
「旋風脚――――〝毒針〟」
体を横方向に高速回転された後に、サソリの尻尾のような体勢で相手の顎に後ろ回し蹴りを炸裂し……。
ドドン! と胸をゴリラのように鳴らした後……。
「〝特大・銀猩猩〟」
巨大ゴリラの如き拳撃でアダムに強烈なボディーブローを喰らわせ……。
そして、大技のコンボの最後に再び『旋風脚』によって空中で前方向にグルグルと体を回した後……。
「〝金剛玉砕〟」
回転踵落としの大技を命中させ、アダムが血を吐きながら地面に叩きつけられる。
ドゴォォオオオオオオオオン!
しかし……。
「ムハハハ…………効くぜ?」
それでもアダムは立ち上がり。
今度は……アダムがドス黒い霊魂を、ポッと手に宿した。
「〝混沌の神霊〟だ……」
すると、アダムはその霊魂を……バクンと丸呑みする。
――〝憑依命令〟。
そう呟いたアダムの体が、地響きがするほどの膨大なエネルギーに満ち溢れる。
その時、彼のオーラと目つきが一八〇度豹変したのだった……。
その頃。
オノダは妖刀の力で黒い人影を倒し続ける傍ら、グロッキー兄弟を探していた……。
「キリがござらんな……」
彼が今居るのは、ロミオとアダムのいる中心街中央広場近くのメインストリートから離れたとある大通り。
「確かに気配はこの辺りにあるが……」
すると。
向かう前方に空から何者かが振ってきて……。
ドォォオオオオオン! と大きな音を立てて着地した。
「グルルルルルルル……」
〝怪力のブルース〟だ。本物である。
そして――。
「――クククククク……」
「!」
ガキィィイイイイイイン!
背後から、ディランが闇の精霊の力で闇に紛れて奇襲を仕掛けてきたのだった!
剣と斧……ガチガチと金属音を鳴らしながら。
「……貴様らを探していた」
斧を払い、ススス……と後ろに下がりながら、オノダはそう言った。
「そうですか。それは光栄ですね♪」
「何故この島の尊き平和を奪おうとする……?」
ディランが言葉を返す。
「『尊き平和』……本当にそうでしょうか?」
「……?」
「見せかけの平和の上で軟弱な兵士がどんちゃん騒ぎ……しまいにはロストボーイなどという身分の差を作りだし、安全地帯の住人の忠誠心と安寧を保つ。貴方だって、この島を見て感じたんじゃありませんか?」
「……何を?」
「善良な市民の犯す……無自覚な罪悪に、ですよ」
「罪悪……?」
「貴方も……もし宜しければ、私たちと共に来ませんか? 〝英雄〟とは会ったばかりなのでしょう? アレは、無知で愚かな者共に〝伝説〟だの〝英雄〟だのと祭り上げられたばかりに、弱い自分にも価値があるのだと勘違いしてしまった、かわいそうな少年の成れの果てですよ。……同情しますが、彼はもう手遅れだ」
オノダが静かに応える。
「ロミオが……碌でなしの天邪鬼であることは、拙者も知っている」
続けざまに。
「認めよう。見せかけの平和、軟弱な兵士、善良な市民……誠にこの国は腐っておる」
「――だが拙者は、それでも人々が剣を取ることもなく、兵士すらも暇を持て余す……この国が好きになり申したっ! 余所者で罪人の拙者が力を貸して良いのなら、守りたいと感じたのだっ!」
「そう思えたのは、メル殿と……そして、そんな娘のために英雄の名を背負ったロミオと出会ったからでござる!」
「その反面、貴様らは……この国の人々の平和を奪い、他の為に涙を流せる心優しき娘の心を傷つけた……!」
「正論もどきの屁理屈を宣い、挙げ句の果てには自制も効かぬほどの肥大な私欲を満たす為、善良な彼らの幸福に手をかけたのだ!」
「その極悪非道の振る舞い……〝不届き千万〟であるっ!」
「これより、剣客・小野田総治郎が……メル殿の闘志と思いを背負った戦士ロミオに代わり、貴様ら現世に彷徨う悪鬼二頭――――元の地獄の底へと送り返し候……」
刀を抜き、そして。
オノダは袖の下から『青鬼の仮面』を取り出して顔に着ける……。
それと同時に、情や迷いの気配が消え、冷徹な殺人鬼のオーラになるオノダ。
オノダVSグロッキー兄弟の戦いが今、幕を開ける……。
開幕早々、シュン! と闇に紛れてディランが姿を消した。
「……!」
オノダは周囲を見渡す。
「〝急行〟」
「!」
突然背後の闇から現れるディラン。
そしてオノダの体を持ち上げ、ブルースの方に全力疾走だ……。
「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
ブルースが月を見上げて、咆哮する。
「〝ラリアット〟!」
ドゴォォオオオオオオオオン!
「ぐぅ……!」
急行列車の如き勢いからの強烈なラリアットがオノダの首に命中する!
ドサリと地面に倒れ込むオノダ。
しかし、すぐに首を押さえながらもオノダは立ち上がる。
(やはり……拙者は妖怪にでもなったのか)
凄まじい速度で首を刎ね飛ばされても死なないのは、やはり妖刀の力がオノダにも影響を及ぼしている証拠か……?
ディランは感心した表情で。
「賞金稼ぎ〝英雄〟の仲間の貴方も人間族だと思っていましたが……貴方の剣は『神器』のようですね。貴方も魔法族でしたか」
オノダは……どうやらこの世界では魔法族の一人のようだ。
オノダは刃を下に向け、真っ直ぐに突きの構えを取る。
そして、迫り来る二人を目にも止まらぬ速さで斬りつけた。
「〝大天狗〟」
ズババンッ!
「「⁉」」
グロッキー兄弟の胴体から、ブシャア! と血が吹き出し……。
「ハァ……ハァ……」
「グ、ルルルル……」
その血を見て二人の呼吸が乱れる。
「〝螺旋斬り・和入道〟」
続いて、再び闇に紛れて奇襲を仕掛けるべく、オノダに接近したディランを全方向の回転で斬りつけ……。
「〝忍び斬り・ぬらりひょん〟」
そして、力の精霊の力によって超人的な馬鹿力を誇るブルースがオノダに襲いかかるが……スルスルと滑らかな身のこなしで回避しながら脇腹を深く斬りつけた。
「ククク……やってくれますねぇ……!」
「グルルルルルルッ‼」
追い詰められた二人は、手の平を上に向け、ポッと霊魂を現にし……。
そして、各々の精霊の霊魂をバクンと食べる。
「!」
(気配が、変わった……?)
二人の体がグググ……と、巨大化する。
「ブルース、アレをやりましょう……! でなければ、我らはこの剣士を倒せない……!」
そう言ったディランが、闇の中へと姿を消す。
そして。
「フンッ!」
「!」
再びオノダを背後から持ち上げたディランが……オノダの背中を力の限り蹴り飛ばし、空中へと放り出した。
「〝フレッシュ・バレー〟」
すると、ブルースが建物の壁を駆け抜け、それからオノダと同じ高度まで飛び上がる。
「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
空中でブルースはオノダの体を巨大化した手の平でバシンと叩き……地面に叩きつける!
ズドォォオオオオオオオオオオオオンッ!
「がっ……」
そして立ち上がろうとするオノダの体をディランが巨大化した手でもう一度掴み、今度はさらに空高くオノダを、ブオンッ! と放り投げた。
「!」
息つく暇も与えられない。
その時、オノダの視点からはネバーランド中心街中の惨劇が見えた……。
やたらと激しい音を鳴らす場所がある。
ロミオとアダム、は今も激しく戦っているのだろう。
(ロミオ……!)
今度はブルースが再度建物の壁を走ってきて、壁を強く蹴り……ジャンプしてオノダの高度まで到達する。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼」
ブルースはオノダの体を強く抱擁して締め上げた。
遅れて、ディランが夜空の闇の中から現れる。
「ここまで丈夫な魔法族は私たちでも見たことはありません! ……しかしこの大技を喰らえば、あれらが崇高なる親玉、アダム様でもタダではすまないでしょう!」
直後、ディランが上、ブルースが下で互いの両足を合わせる。
「〝断頭・パワーボム〟」
ディランとブルースが互いに両足を蹴り押し、その勢いでブルースが地面へと急降下していく……!
ドォォオオオオオオオオオオオンッ‼
と、激しい音を立てて頭から地面に叩きつけられたオノダ……。
その場が戦塵で満たされる。
「さて……これで死んでくれましたかねぇ」
「グオオオオオオオオォオォオオ!」
ディランが着地し、ブルースも雄叫びを上げる。
しかし。
「「!」」
ディラン&ブルースは少しずつ薄れゆく戦塵の中に――一匹の青鬼を見た。
「これで生きてるとは、考えられない……。まるで幽霊のようですね……」
大技をモロに喰らっても死なないオノダに、流石に引くグロッキー兄弟。
「……ならば、せめて永久に地の底で安らかに眠らせてあげましょう! ブルースッ‼」
すると。
「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼」
ズズ……ズズズズズズ……。
雄叫びを上げたブルースが……建物一棟を丸ごと持ち上げる。
それから、そんなブルースをディランが持ち上げ、投げ飛ばす!
ブオオンッッ!
空中でブルースは、オノダの頭の上を狙って……。
「〝隕石ビルディング〟」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」
……オノダ目掛けて建物を叩き落とす!
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン‼
大通りが、建物で塞がれる。
ブルースがズシンと、地面に着地する。
「安らかに眠れ……幽鬼よ……」
……。
「……?」
ディランが背後に影を感じる。
パッと月の方角を見上げると。
背後に月の光を受けた青鬼が、空中に飛び上がっていた。
「〝青鬼流抜刀術〟……」
「「‼」」
ディランとブルースが同時にオノダに飛びかかるが……時すでに遅し。
二人とすれ違ったオノダ。
そして。
「――〝武兵賊砕〟」
剣を鞘に納めると同時に。
ディランとブルースが盛大な血飛沫を上げて、大通りを自分たちの血で真っ赤に染め上げる。
ブシャアアアアアアアアアアアアアア‼
「「ガハァァアアアアアアッ……」」
そして二人はバタリと地面に沈んだ後、それから二度と立ち上がることはなかった。
二人の肉体から精霊の霊魂が出てくる。
オノダが青鬼の仮面を外し……静かだが、それでも厳かな口調でこう呟いた。
「斬り捨て、御免……ッ!」
場所は移り、中央広場近くのメインストリート。
つい先程まで騒がしかったその場は今、シンと静まりかえっている。
その時ロミオは……地面に倒れていた。
「ムハハハハッ! ほらみろ……〝狩人〟が〝魔獣〟に白兵戦を挑むからそうなるんだ」
アダムが笑う。
ロストボーイたちは青ざめていた。
『あの人、もう死んでるんじゃないかな……』
周囲の地面は何十個も抉られた跡があり、建物の壁はズタボロだ。
「……クッ」
『! ……い、生きてた……!』
ロミオがゆっくりと立ち上がる。
「まだ生きてたか……」
アダムが空を見上げる。
「今日はいい夜だ。もうじき邪魔な雲が消える……」
「……?」
すると、アダムが衣服の中から布袋を出し、その中から何かを取り出す。
「これが何か分かるか?」
深青色の石だ。
「俺がここ数週間大人しくしてたのは、コレを使うタイミングを測っていたからだ」
今宵は満月の夜。やや雲の流れがあるが、方角的に直に晴れる。
「俺は、この瞬間をずっと待ってたんだ。お前よりもずっとずっと長く……辛抱したんだ」
怒りに打ち震えた様子で、アダムはそう言った。
「元王族に生まれ、本能のままに生きてきた……そんな俺が何故我慢をしなきゃならないんだ……!」
アダムの目尻がつり上がる。
「何もかも、あの女シャーロットのせいだ‼ 俺から王族の地位を奪い、この国を裕福でつまらない国に仕上げる一方で俺を大犯罪者として野に放ったんだ! 俺のもたらす災厄は、全部あの女の呪いなのさっ‼」
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ!
アダムは己の内側に秘めていた感情を発露し、激しく憤りながら地面を何度も力強く踏みつけた。
その時、メルがこの場にたどり着く。
「ハァ……ハァ……――っ!」
そして、メルはアダムが手に持つその石を見て、ハッとする。
「ロミオさんっ! 急いで石を奪ってください! その石は『魔法石』ですっ!」
『『は⁉』』
メルからの衝撃の言葉に、ロミオも一同も動揺する。
「よく知ってるな小娘……。お前も外から来た人間族のようだが、何故石の存在を知ってる?」
「そ、それは……」
「ありがとう、メル!」
ロミオが割って入る。
直後、ロミオがアダムの石を奪いにかかるのだった。
「よこせ!」
石に腕を伸ばすが、ブンッ! と手を引っ込めるアダム。
それからアダムはヒラヒラとロミオの手を避けながら笑うが。
「おとと……」
すると、ロミオがアダムの顔面目掛けて唾を吐きかける。
ペッ!
「……ッ! クソガキが……!」
アダムの隙を狙ってロミオが石を奪おうとするが、アダムがそれをさせない。
思いっきり顔面を殴られるロミオ。
「ぶはっ……! げほっ……!」
怒りのあまり理性を失ったアダムは、殴って蹴ってを繰り返す。
「!」
そして、ついには魔力を込めた拳をロミオに振りかざすと……。
ブシュ……。
「……オォォ……!」
アダムの胸に――ナイフが突き刺さる。
「……武器を使わないなんて言ってねえよな?」
ナイフを引き抜いた後、ロミオはポーチから大量のナイフを取り出し……。
両手の全ての指の間に――まるで鉤爪のように――ナイフを構えた。
「これが、〝英雄〟の戦闘スタイルだ……!」
抜群のナイフアクションを見せるロミオ。
「〝四連ナイフ投げ〟」
右手の四本のナイフをアダムへとビュン! と投げ……。
「〝獅子の爪〟」
左手の四本のナイフでアダムの脇腹を切り裂いた……。
(今だ!)
ロミオが一本のナイフを投げる。
「!」
アダムの手が緩んだ隙に、魔法石目掛けてナイフが飛んでゆく――。
――見事に石にナイフの先端が当たり、石が地面に転がり落ちた。
「こいつ……!」
それからアダムよりも素早く、スライディングでロミオが奪う!
「やった!」
遅れて襲いかかるアダムだが、急所のナイフで弱っていて動きが鈍い。
「返せクソガキ……。そんなもの奪ったところで人間族が魔法族にはなれやしない」
しかし、メルが叫ぶ。
「その石を月に翳して下さい! あの満月に!」
「?」
「千年に一人の筋肉の天才のあなたなら一千万人に一人の確率も引けるかもしれません!」
アダムが歯ぎしりをする。
ロミオは――満月に石をかざした。
「なってやろうじゃねえか。魔法族に‼」
第五章 『黎明の英雄』
メルはフラッシュバックする。
それは、幼い頃の母との会話だ。
「お母さん、どうして人間族は魔法をを使えないの?」
「いいえ、メル。使えないんじゃなくて、殆どの人が気づいていないだけなのよ?」
「え、そうなの? お母さんは使えるの?」
「いつも使ってるわよ? 〝愛〟っていう、とびきり強い魔法をね。だからお母さんのご飯はいつも美味しいでしょ?」
「うん! 私、お母さんのご飯大好き!」
「うふふ、ありがと♡ メルもきっと、大きくなったら使えるようになるよ」
「本当⁉ やったーっ!」
「でもね、魔法使いになるには一つだけ大事なことを忘れちゃダメなの。それを忘れちゃったら、魔法は使えなくなっちゃうのよ?」
「大事なこと……?」
「そう。大事なのは『魔法を信じること』。子供の頃は皆信じてるのに、大人になると皆信じなくなっちゃうの」
「だから人間族は魔法を使えないの?」
「ええ、そうなの。……だけど、お母さん知ってるの。人間族から魔法族になった人」
「その人って、どんな人だったの?」
「それはね――――」
――――『誰もが笑うおとぎ話を、本気で実現させようとする大馬鹿者』。
サラサラサラ……。
満月に照らされた石から光の粉がロミオへと降り注ぐ。
そして。
ブワッ!
「……っ!」
制止しようとするアダムを吹き飛ばす程のエネルギー波が生まれる。
すると……ロミオの体の周りに、青色のオーラが漂う。
(不思議な感覚だ。全身からエネルギーが満ちあふれる……これが魔法族なのか……!)
「危ないっ、ロミオさん!」
頭上から瓦礫が落ちてくる。
「いてっ……⁉」
その瓦礫はロミオの頭に当たった後……プカプカと宙に浮かんでいた。
「なんだ、これ……!」
「フンッ!」
アダムが攻撃してくるが、咄嗟にロミオがアダムの腹に拳を振ると。
ボコォォオオオオオン!
「おおおおおおおおおっ……!」
鳩尾が飛び出るような衝撃波と共に、アダムがザザザザ……と後ろに後退する。
『つ、強い……!』
「俺の時代が来た‼」
そしてロミオが不敵に笑いながら言う。
「今日から俺がお前ら魔法族の天敵だ‼」
アダムが答える。
「その魔法はお前みたいな軟弱野郎には使いこなせない……。どのみちお前の肉体はもう限界間際、殺して奪えばまた俺のものだ……!」
アダムが本気でロミオを殺しにかかる。
――〝凶弾〟。
「おぉえ……!」
肉体を貫くようなアダムのボディーブローが腹部に突き刺さり……。
――〝軍団〟。
「がっ……!」
腹部への追撃の前蹴りがロミオを悶えさせ……。
――〝月食〟。
「ぶはっ……!」
ロミオの頭部を地面へとめり込ませる……。
しかし、それでもロミオは立ち上がる。
「〝円旋回〟」
ロミオがアダムの足を払い、アダムは地面に倒れ込み……。
「〝ムーンサルト〟」
すぐに立ち上がろうとしたアダムの顎を蹴り上げ……。
「〝シルバーバック〟」
アダムの腹部にボディブローを叩き込む……。
「ハァ……ハァ……」
「ゼェ……ゼェ……」
両者ともに呼吸が激しく乱れる。
しかし、戦いの中でロミオが魔法の特性に気づく。
(間違いない……。俺が受けたダメージが、そのままエネルギーとして俺の技に加算されてるんだ。この魔法の正体は『カウンター』ってところか……? 体への反動もあるし、なんだか調節が難しいな)
魔法族になったロミオの攻撃もアダムに大ダメージを与えてきたが、既にロミオの体もボロボロ……。
「おりゃ!」
ロミオの右ストレートが空振り、アダムがニヤリと笑う。
そして、首後ろの襟を掴み……再び大技を繰り出した。
――〝死の運命〟。
ドカァァアアアアアアアアアアン!
「ぐは……っ……」
思い切り頭から地面に叩きつけられるロミオ。
(……やべっ……死ぬ……)
息を切らすアダム。
目の前で倒れるロミオにトドメを刺そうとするが……。
ビュン!
「!」
『『!』』
サアアアアアア……。
爽やかな風と共に、周囲が明るくなる。
ソフィアが城の頂上の『鐘の間』から魔法の弓矢を放ち、ネバーランドの景色が再び桃源郷のように色鮮やかに戻る。
(ソフィアが意識を取り戻したのか……!)
「ちっ、急ぐか……畜生」
一瞬よそ見をしたアダムがロミオの方を向くと、ロミオは立ち上がって魔法の拳を構えていた。
「あばよ――〝絶望〟ッ‼」
「っ⁉」
「〝黎明の〟――」
「クソッ!」
アダムも魔法の拳を振るが、ロミオの方が一瞬動作が速かった。
「――〝英雄〟ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ‼」
ロミオの全力の拳撃がアダムの肉体に直撃する。
ブォォオオオン! と巨大な衝撃波が広がった後、アダムは遥か彼方まで吹っ飛んでゆく。
「ぐぁぁあああああああああああああああああああああああああああっ!」
中央広場の英雄の銅像を通り過ぎて、あらゆる建物をぶち抜いて、アダムが吹き込んだのは町と町を隔てる壁の向こう……隣の街だった。
ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼
その場に歓声が上がる。
拳を構えたロミオの筋肉質な肉体が萎んでいき、元の華奢な体型へと戻る。
近くの大通りの黒い人形が消えていくのを見て、オノダはロミオの勝利を知った。
「天晴れにござるっ……! ロミオォッッ‼」
一方、飛行船場には逃げ延びたダニエルとガンドロフがいた。
そこに島の精鋭部隊《アルカディア》が帰還する……。
一人の銀髪の女剣士が船から出てくる。
彼女の名はハーヴァ・ヒルデブラント。異名は〝銀世界〟。
「……レオパルド卿、状況を伝えろ。ソフィア様は今どうなっている? 〝絶望〟は今どこにいる?」
「そ、それはですねぇ……」
すると、別のシュバリエが『ブースト』を使って走ってくる。
「ハーヴァ様っ、ご報告致します! たった今、〝絶望〟が倒されました!」
アルカディアの一同が騒然とする。
ダニエルとガンドロフも驚く。
「……誰が倒した?」
『〝英雄〟です‼』
中央広場近くのメインストリートは、歓喜に満ちていた。
ワアアアアアアアア……。
そんな中、ロミオはメルの前に歩いて行き……。
「助かった! ありがとう!」
「はいっ……!」
にこやかに笑うロミオに、嬉し涙を流すメル。
ロストボーイたちはより一層湧き上がる。
メルに手を差し伸べ、握手を求めるロミオ。
メルはその手を取ろうとするが……。
……バタン。
ロミオが倒れる。
一転、その場の人々が慌て出した。
そこに、シュバリエにおんぶされながらソフィアがやってくる。
同行のシュバリエの手を握りながら、よろよろと歩いてロミオに近づき、それから膝枕をした。
ロミオは夢の中で、ソフィアの姿を見る。噂通り、まるで妖精の姫のような美しさの――盲目の少女だった。
辺りは一面の花畑。
「お前は誰だ……?」
「――ソフィア」
「ネバーランドの王様だな」
「ありがとう、ロミオ」
「? 俺のこと知ってるのか?」
ふふっと、ソフィアはただ笑うだけ。
そんな会話をしながら、ロミオは聞く。
「俺は……死んだのか?」
「いいえ、まだ微かに心臓は動いてる」
「もうじき死ぬって事か……そういや〝絶望〟はどうなった?」
「彼は今気を失っている。あなたが倒した」
「へへへっ、そっか!」
思い残すことはないとばかりの満面の笑みのロミオ。
しかし、外からの声が響いてくる。
メルの泣き声、心配するロストボーイたちの声、宥めるシュバリエたちの声。
「あなたに一つ提案がある」
すると、ソフィアが突然そう言い出す。
「提案?」
「【エスプル・ハルディン】に入ってほしい」
「はぁ?」
「あなたは一応、ギルドの牢獄の囚人……。ネバーランドにも迷惑をかけた」
「ああ、まあ……確かにな。すまん」
「でも、あなたは今この国の英雄になった」
続けてソフィアは言う。
「きっとこのままだと、あなたはハーヴァに殺されてしまう。ギルドの秩序と矜持を守るために」
「……」
「でも、あなたがこの国のシュバリエになってくれるなら、今回の功績に見合った報酬と待遇を約束する」
「……ハーヴァが?」
「私が」
「プッ……アハハハハハハッ!」
「……? 冗談は言ってない」
「分かってるよ。なんか俺、素直すぎて苦手だな~お前」
「そう……」
「俺の夢は、人間族の国を作って……その国の王になることだったんだ」
「うん」
「でも、俺はもう魔法族になったから、その夢は叶わない」
「うん」
「だから、俺は魔法族として天下を取ることにした!」
「じゃあ……もう一度、あなたの物語を始めてみる? この島国から」
そう言ったソフィアは女神のような優しい微笑みで……。
「へへへ――――それも、悪くないかなっ!」
笑うロミオの体が沢山の暖かな光の粒に包まれていく。
「あなたのその野望は、私が必ず見届けます」
――約束。
そうして英雄の意識と肉体は再び、現世の時間を取り戻していくのだった……。

